ストループ現象と抑制系-マシュマロ・テストに合格するには
皮質の抑制系の機能を検査する方法としてStroop課題を用いて研究を行っています。ストループ現象とは文字の「意味」と文字の「色」という二つの情報が異なる場合に干渉を起こすことで、1935年に心理学者ジョン・ストループによって報告されたことから、この名前がつきました。たとえば赤インクで青という文字が書かれている場合、その色を言うように言われたら、字の青がじゃまをして「赤」というのに時間がかかる現象がストループ干渉です。赤インクで青という文字が書かれていて、その字の意味を言うように言われたら、赤色がじゃまをして「青」と答えるのに時間がかかる現象が逆ストループ干渉です。このように、意味情報と色情報が脳内で葛藤を起こし混乱する現象です。色と文字がそれぞれ異なる概念を提示しているために処理に時間がかかると推測されています。ストループ課題では、どちらか一方の刺激に選択的に注意を向けるため、もう片方の刺激を無視(干渉制御)しないといけません。 そのためストループ効果・逆ストループ効果は、意識的に特定の事柄に注意を向ける選択的注意力が要求され、脳の抑制系の機能が重要になります。
統合失調症患者さんの社会復帰に向けて、金銭の自己管理は重要なスキルの一つです。金銭の自己管理能力が低い場合は、逆ストループ効果が出やすいことが分かりました[1]。逆ストループ課題を行う時には、右中前頭回(Right medial frontal gyrus)、右下前頭回(right inferior frontal gyrus)、右前帯状皮質(right cingulated gyrus)が活動することが脳機能画像研究から推測されています[2]。逆ストループ課題を認知リハビリなどで行うことが社会復帰には有用と推測されます[1]。
そう言えば、抑制系の課題で有名なのは「マシュマロ・テスト」ですね。スタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェルが行った有名な実験です。検者は被検者の4歳児に対して机の上にマシュマロを1つ置き、こう言ってからその場から消えます。「帰ってくるまで食べずに我慢できたら、マシュマロを2つあげるからね。」と。このマシュマロ・テストで我慢できて報酬を2倍獲得できた子供は、その後の教育や生活レベルが高かったというものです[3]。将来の報酬のために目の前に提示された報酬の誘惑から逃れることがその後の社会的成功を予測できるという結果です。親は子供のマシュマロ・テストの結果に一喜一憂しがちですが、結果が重要ではありません。マシュマロ・テストもそれを行う環境で異なる結果が出るからです。結果より、マシュマロ・テストに合格できるような方法論をいくつか教示し、ときにそれを実践することが大切です。たとえば我慢する手段として、一人になったときに報酬であるマシュマロを見ないようするとか、マシュマロ以外のことを考えて我慢するとかです。適切な抑制系の発達を促す教育が大切です。統合失調症患者さんの抑制系の機能検査も、「できる・できない」を検査することは本来の目的ではありません。必要な抑制課題ができる援助を行う方法を開発することが、実は認知リハビリテーションの重要な課題と思います。
文献
[1]Nagamine T. The Reverse-Stroop Test Predicts Self-Discipline of the Money of Schizophrenia Patients. Int Med J. 2017;24(5):428-429.
[2]Song Y, Hakoda Y. An fMRI study of the functional mechanisms of Stroop/reverse-
Stroop effects. Behav Brain Res 2015; 290: 187-96.
[3] ウォルター・ ミシェル (著), 柴田 裕之 (翻訳).マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 .早川書房 2015/5/22
[RB1. The Reverse-Stroop interference is more sensitive than the Stroop interference to detect cortical inhibitory function of schizophrenia patients; To pass a marshmallow test.]