ケタミンの抗うつ効果;うつ病はセロトニン仮説から脱却できるのか?
麻酔薬であるケタミン(ketamine)の抗うつ効果が注目されています。SSRIなどのセロトニンを増やすうつ病の薬物療法は、効果が発現するまで2~4週間もかかります。動物モデルですが、ケタミンの抗うつ効果は速効性があり、なおかつ投与を中止しても予防効果があります[1]。私は35年前にケタミン麻酔で奇妙な経験をしました。術後ラウンドで患者さんの病室を訪問した時、妙にテンションの高い患者さんがいたのです。麻酔薬はケタミンでした。「先生、内容は恥ずかしくて言えませんが、手術中に面白い夢を見ましたよ。色も綺麗でね。」と興奮気味に話してくれました。テンションが高いのは手術が終わったからかもしれませんね。しかし数日ですが明らかに話し方が術前とは異なって感じられたので、私はケタミンが少し怖くなりました。ケタミンは、ベンゼン、シクロヘキサン、ピペリジンが結合したフェンサイクリジン(phencyclidine)構造を有し、主にNMDA受容体に作用します。平面構造での電子配列では、N原子から適当な空間距離にエネルギー(二重結合)が存在するのでドパミン受容体に対してアゴニスト性があると予測します[2,3]。
統合失調症のフェンサイクリジンモデルが示すように、NMDA受容体に作用する薬は精神機能への影響を考えなければなりません。動物モデルで示されたケタミンの速効的である抗うつ効果は、セロトニン中心にうつ病を考えてきた現代の精神科薬物療法に新たな視点を投げかけているように思います。
文献
[1]Brachman RA, McGowan JC, Perusini JN, Lim SC, Pham TH, Faye C, Gardier AM, Mendez-David I, David DJ, Hen R4, Denny CA. Ketamine as a Prophylactic Against Stress-Induced Depressive-like Behavior. Biol Psychiatry. 2016 May 1;79(9):776-86.
[2]Nagamine T. Atypical Antipsychotics May Have Dopamine Agonistic Activity Because of Their Pharmacophore. Int Med J. 2013;20(5):552-554.
[3]Nagamine T: Why do the new drugs based on the glutamate hypothesis seem to be difficult to exert clinical efficacy solely in schizophrenia? Int Med J. 2013;20(5):542-543.
[RB4. Can a breakthrough from serotonin hypothesis of depression be achieved under the current ketamine research?]