top of page

「プラセボ効果」をさまざまな側面から研究しよう

プラセボ効果は「気のせい」ではありません。薬が使われるとき、薬に付加的に加わった性質(たとえば、色、ブランド、投与する人の権威など)が意味を形成し、脳内に変化が起こるのです。ですから、意味応答(meaning response)の一つです[1]。たとえばPET(positron emission tomography)を用いてプラセボ効果を検討した研究では、パーキンソン病患者がプラセボ効果を示すときは、背側線条体や側坐核(報酬系)でドパミンの放出が増強することが確認されています[2]。抗うつ効果の発現時期と向精神薬の電子配列を比較した私の研究でも、ドパミンアゴニスト性があるほうが効果の発現が早く、一部報酬系の回路に薬が影響したと考えられました[3]。プラセボは患者さんに実薬でないことを隠しているから効果が得られると思われています。そうではなくて、プラセボであることを患者さんに知らせても効果を示します(これをopen label placeboと言います)。条件付けとこのオープン・ラベル・プラセボを連動させると、実薬の副作用を軽減できることもあります。サンドラーらはADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬とオープン・ラベル・プラセボを用いて条件付けを行い、実薬を半減しても治療効果が続くことを示しました。結果として実薬の副作用が半減したのです[4]。さらに最近では、脳活動のパターンを機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)による血流の変化で検出し、それを人工知能で分析し、条件付けと関連付けて脳の思考を変化させる研究が進んでいます。DecNef(decoded neurofeedback)です。すでにこの技術を用いて、顔の好みを変えることに成功しています[5]。ただしこれらの研究はいわゆるマインド・コントロールに応用されるリスクがあり、高い倫理性が求められます。

向精神薬の開発治験では、プラセボ対照試験が必須です。抗うつ薬に限らず抗精神病薬でもプラセボ効果が強く、実薬は苦戦し、薬効の評価が難しい現実があります。治験ではプラセボ効果は薬効を攪乱するといわれますが、そうではなくて、プラセボ効果の本質を私たちが理解していないだけです。オープン・ラベル・プラセボの効果をみても分かるように、治験はプラセボを対照としたダブルブラインドで行えば必ず科学的であるとは言えないのです。プラセボの本質を脳機能画像研究、神経伝達物質の代謝産物、認知心理学的研究など、さまざまな切り口から行い、その本質を理解することが必要です。そうすれば向精神薬の開発治験でのプロトコールも必然的に変化し、より効率的に薬効評価ができるようになると思います。

文献

[1] Moerman DE, Jonas WB. Deconstructing the placebo effect and finding the meaning response. Ann Intern Med. 2002;136(6):471-6.

[2]de la Fuente-Fernández R, Ruth TJ, Sossi V. et al. Expectation and dopamine release: mechanism of the placebo effect in Parkinson's disease. Science. 2001; 293(5532):1164-6.

[3]長嶺敬彦:ドパミンと抗うつ効果-pharmacophoreからの推測-.最新精神医学2013;17(4):397-405.

[4] Sandler AD, Glesne CE, Bodfish JW. Conditioned placebo dose reduction: a new treatment in attention-deficit hyperactivity disorder? J Dev Behav Pediatr. 2010;31(5):369-75

[5] Shibata K, Watanabe T, Kawato M, Sasaki Y. Differential Activation Patterns in the Same Brain Region Led to Opposite Emotional States. PLoS Biol. 2016;14(9):e1002546.

[RB5. The need for future studies of placebo effect]

bottom of page