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バルプロ酸とカルニチン欠乏

カルニチンは1905年肉エキスから単離されたベタイン構造有するビタミン様物質です。ビタミン様物質というのは、ヒトでは微量ですが、リジンから生合成されるからです。カルニチンの語源はラテン語の「肉」で、主に骨格筋や心筋に分布し、エネルギー代謝に必須の物質です。脂肪酸のβ酸化はヒトを含む真核生物ではミトコンドリア内で行われますが、長鎖脂肪酸アシルCoAはミトコンドリア内膜を通過することができないので、カルニチンがアシル基キャリアとして作用しミトコンドリア内への運搬を行っています。ミトコンドリア内ではアシルカルニチンからCoAにアシル基が転移され、再びアシルCoAが生成されβ酸化を受けます。カルニチンはミトコンドリア内で生じるアシル基と結合して、これらをミトコンドリア外へ排出するキャリアとしても働きます。カルニチン欠乏では、①脂肪酸β酸化の抑制、②ミトコンドリアからのアシル基除去抑制によるミトコンドリア機能障害が起こります。 ところで精神科でよく使われるバルプロ酸はカルニチン欠乏を招く危険性があります。バルプロ酸はカルニチンと結合して、バルプロイルカルニチンとなりカルニチンが尿から排泄されてしまいます。バルプロ酸は中鎖脂肪酸なので、その一部はβ酸化されます。バルプロイルCoAがミトコンドリアに取り込まれる際にカルニチンと結合し、カルニチンが消費されます。カルニチン欠乏状態では、有毒なバルプロ酸代謝物質が蓄積し、アンモニアが上昇します。さらにバルプロ酸はグルタミン酸の腎代謝を増加させ、アンモニアを生成します。

草津病院(広島県)の中村らは、精神科臨床でバルプロ酸投与がアンモニア値やカルニチン組成にどのような影響を与えるのか検討しています。バルプロ酸の投与は用量依存的に血中のカルニチン組成を変化させ、アンモニアの上昇に寄与していました[1]。バルプロ酸投与下ではアンモニアの上昇に注意しなければなりません。またアンモニアの上昇を認めない症例でも、カルニチン組成に変化をきたしますので注意が必要です。さらに、中村らはバルプロ酸による高アンモニア血症の症例にカルニチン補充(Levocarnitine;エルカルチン®の投与)が有効か検討しています。約半数の症例でアンモニアが低下し改善を認めています。アンモニアの低下とカルニチン組成の変化が相関し、一部では精神機能の改善を認めています[2]。下記アドレスを入力すれば、ネットで全文を読むことが可能です。 [http://innovationscns.com/the-effect-of-carnitine-supplementation-on-hyperammonemia-and-carnitine-deficiency-treated-with-valproic-acid-in-a-psychiatric-setting/] このような精神科薬物療法が物質レベルの変化を誘発する研究は少ないですが、非常に重要な研究です。精神科薬物療法の安全性を高めるからです。

(文献) [1]Nakamura M, Nagamine T. Hyperammonemia and Carnitine Deficiency Treated with Sodium Valproate in Psychiatric Setting. Int.Med.J.2015;22(3):132-5. [2]Nakamura M, Nagamine T. The effect of carnitine supplementation on hyperammonemia and carnitine deficiency treated with valproic acid in psychiatric setting. Innov Clin Neurosci.2015;12(9-10):18-24.

[RB6. Carnitine deficiency related to sodium valproate in psychiatric settings.]

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