認知症治療薬の限界
- 長嶺敬彦
- 2017年4月10日
- 読了時間: 2分
認知症の患者数は人口の高齢化に伴って急増しており、わが国では2013年で462万人(厚生労働省研究班調べ)と、65歳以上 の高齢者の15%を占めています。認知症の病態は完全には解明されていませんが、病態として海馬の委縮が重要です。認知機能検査のMini Mental State Examination(MMSE)のスコアとCTで測定した海馬の横径は相関します[1]。また空腹時インスリン値とMMSEのスコアが相関し、インスリンの中枢での神経保護作用が認知機能低下を防いでいる可能性が示唆されています[2]。認知症の治療には認知症治療薬が用いられます。しかし認知症治療薬は海馬の神経を増やす作用はありません。フィンランドの最近の研究では、認知症では入院治療にコストがかかり、その中でも認知症治療薬の費用が高いことが示されています[3]。現状の認知症治療薬は「症状改善薬」であって、疾患自体を改善する「疾患修飾薬」ではありません。症状改善が期待できない場合はコストばかりがかかることになります。また副作用にも注意が必要です。副作用としては消化器症状がもっとも多く、心臓の刺激伝導系への影響にも注意が必要です。抗精神病薬投与下での認知症治療薬の急激な増減は悪性症候群を誘発する危険性もあります[4]。さらに、認知症で精神科病院を受診した患者さんのご家族(介護者)は、患者さんの認知機能が保たれている方がストレスが高く、家族機能が低下していました[5]。患者さんの認知機能と介護者の心理的負担は必ずしも一致しません。認知症治療薬の限界を考えなければなりません。ご家族(介護者)を視野に入れた認知症治療が求められます。
[文献]
Nagamine T. Asymmetry and Decreased Size in the Hippocampus of Dementia Patients. Int Med J. 2015;22(4):345.
Nagamine T et al. Fasting Insulin Levels in Individuals with Non-Diabetic Alzheimer’s Disease. Int Med J. 2016;23(1):2.
Taipale H, Purhonen M, Tolppanen AM, Tanskanen A, Tiihonen J, Hartikainen S. Hospital care and drug costs from five years before until two years after the diagnosis of Alzheimer's disease in a Finnish nationwide cohort. Scand J Public Health. 2016 ;44(2):150-8.
Nagamine T. Neuroleptic Malignant Syndrome Induced by Abrupt Withdrawal of Donepezil. Int Med J. 2016;23(5):470-471.
Nagamine T. Family Function Among Caregivers of Dementia People with Neuropsychiatric Symptoms; A Study Using Smilkstein’s Family APGAR Items. Int Med J.2016;23(3):306-307.
[RB14. Agents for the treatment of dementia are “symptomatic drugs”, but not “disease modifying drugs”. ]
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