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エブセレンは双極性障害の治療薬になりえるか?

  • 長嶺敬彦
  • 2017年4月11日
  • 読了時間: 2分

双極性障害の治療薬としてリチウム(Li)はゆるぎない地位を保っています。そもそもLiが双極性障害にどうして効果を示すのかは完全には解明されていません。Liは、単純な陽イオンであり、酵素活性に必要なMgと拮抗することでその活性を変化させるからと考えられます。抗躁効果の標的酵素として、イノシトールモノホスファターゼ (IMPase)とGSK-3βが有力視されています。IMPaseを阻害すると、基質であるイノシトール-1-リン酸の蓄積とイノシトールの欠乏を招き、その結果ホスファチジルイノシトールを細胞内で枯渇させます。

ところで、抗酸化作用で一時期脳梗塞への臨床応用が期待され実現しなかった化合物にエブセレンがあります。エブセレンには強力なIMPase阻害作用があります[1]。リチウムは安全域が狭い(治療効果が出る治療域と毒性が出る中毒域の差が小さい)ために臨床ではしばしば重篤な副作用を経験します。さらに体重増加、喉の渇き、震え、腎臓障害など、副作用の種類も多く、Naイオンとの競合のため心電図モニターが必須です[2]。それに対して動物実験レベルですが、エブセレンはこのような副作用が少なく、効果がLiと同等かそれ以上と報告されています[1]。1H MRS(proton magnetic resonance spectroscopy)を用いて ヒトの脳での代謝をみると、IMPaseを阻害していることが確認され、双極性障害の治療薬として期待されます[3]。ただし細胞内イノシトール枯渇マウスでは、下顎の形成が極めて不良であることも報告されています[4]。Liは妊娠中禁忌ですが、細胞内イノシトールの低下は胎児の発生に影響する可能性があります。今後、双極性障害と細胞内のイノシトール代謝に関する研究が必要です。

文献

[1] Singh N, Halliday AC, Thomas JM et al. A safe lithium mimetic for bipolar disorder. Nat Commun. 2013;4:1332.

[2]長嶺敬彦.リチウムは血中濃度だけでなく,心電図をモニタリングする必要がある.三光舎HP,RB8.2017.

[3] Masaki C, Sharpley AL, Godlewska BR et al. Effects of the potential lithium-mimetic, ebselen, on brain neurochemistry: a magnetic resonance spectroscopy study at 7 tesla. Psychopharmacology (Berl). 2016;233(6):1097-104.

[4] Ohnishi T, Murata T, Watanabe A et al. Defective craniofacial development and brain function in a mouse model for depletion of intracellular inositol synthesis. J Biol Chem. 2014 ;289(15):10785-96.

[RB15. Does ebselen represent a lithium mimetic effect by inositol monophosphatase inhibition as a treatment for bipolar disorder in clinical practice?]

 
 
 

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