抗菌作用は精神症状を変化させる?;2つの事象から
消化管で惹起される分子生物学的変化は精神機能に影響します。われわれは腸内細菌叢が変化することで精神症状が改善する現象を臨床で経験してきました。そのメカニズムは不明ですが、消化管での分子生物学的変化が腸管のバリアを通って血流や神経を介して脳に伝わることが推測されます。
パーキンソン病は黒質線条体のドパミン神経伝達が低下する疾患ですが、認知機能の低下など精神症状を合併する割合が高いです。パーキンソン病は線条体にαシヌクレインが凝集してできたレビー小体が蓄積しドパミン神経細胞が減少します。しかし凝集したαシヌクレインンは線条体だけでなく、迷走神経にもみられます[1]。さらに迷走神経の本幹を切断した人はパーキンソン病の罹患率が低いことが疫学で示されました[2]。消化管での分子生物学的変化は迷走神経を介して脳に伝播すると考えられます。
面白いことに、脳に作用し精神症状を改善する薬の一部は抗菌作用を有します。MAO阻害作用で抗うつ効果を示したイプロニアジド(iproniazid)は抗結核薬でした。この薬の抗菌メカニズムは、細菌の細胞壁の合成阻害です。SSRIであるセルトラリン(sertraline)は細菌の排出ポンプを阻害し抗菌活性を有します。三環系抗うつ薬であるイミプラミン(imipramine)は抗プラスミド活性を有し抗菌作用があります[3]。抗うつ薬は中枢への作用とは別に抗菌活性で腸内細菌叢を変化させると考えられます。また抗生物質であるミノサイクリン(minocycline)は抗精神病作用を示す可能性が示されています。ミノサイクリンは抗精神病薬との併用で陰性症状を改善します[4]。ミノサイクリンによる抗精神病作用は、中枢での抗炎症作用やミクログリアの活性化が推測されていますが、抗生物質ですから腸内細菌叢に影響した可能性もあります。臨床で抗うつ効果や抗精神病作用を示す物質の一部は抗菌活性を有します。これらの薬の中枢への作用にばかり目がいきますが、抗菌活性から腸内細菌叢に影響を与え、消化管から脳への信号が変化した可能性があります。
消化管での分子生物学的変化が迷走神経を介して脳に伝播する可能性があること、抗うつ薬などには抗菌活性があり腸内細菌叢で分子生物学的変化が惹起されている可能性があること、以上の2点から抗菌活性は精神症状と関連する可能性が推測されます。
[文献]
[1]Phillips RJ et al. Alpha-synuclein-immunopositive myenteric neurons and vagal preganglionic terminals: autonomic pathway implicated in Parkinson's disease? Neuroscience. 2008 ;153(3):733-50.
[2]Svensson E et al. Vagotomy and subsequent risk of Parkinson's disease. Ann Neurol. 2015;78(4):522-9.
[3]Macedo D et al. Antidepressants, antimicrobials or both? Gut microbiota dysbiosis in depression and possible implications of the antimicrobial effects of antidepressant drugs for antidepressant effectiveness. J Affect Disord. 2017;208:22-32.
[4]Oya K et al. Efficacy and tolerability of minocycline augmentation therapy in schizophrenia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol. 2014;29(5):483-91.
[RB17. The antimicrobial effect of psychotropic drugs is involved in psychotic symptoms in patients with mental disorders through vagal nerves.]