トレースアミン(TA)と統合失調症
トレースアミン(trance amines;TA)とは生体内にごく微量存在し、モノアミンの機能調節に関わる分子です。β-フェニルエチルアミン、チラミン、トリプタミンなどがあります。TAを合成する細胞をD細胞といい、ラット中枢神経系において報告され、尾側から吻側へ向かって、D1(脊髄)~D14(分界条床核)と命名されています。なおD細胞のDはドパミンではなく、 脱炭酸酵素(decarboxylase)のDを意味しています。アミンはアミノ酸から脱カルボキシ反応により作られます。ですからTAを産生する細胞は脱炭酸酵素を有しているのでD細胞と言われます。アミンといえば、カテコーラミン、セロトニン、ヒスタミンなどが有名ですが、これらのアミンは産生量が非常に多いのでTAとは言いません。
統合失調症の死後脳研究で、側坐核におけるD細胞の脱落が示されており、統合失調症とTAの関与が推定されています[1]。TAが作用する受容体の中で、TA関連受容体1型(TAAR1)はドパミン神経伝達と関連します。側坐核D細胞の減少によりTAAR1シグナルが低下し、中脳辺縁系のドパミン過活動が惹起されたというのが、統合失調症のD細胞仮説です。TAAR1ノックアウトマウスは、統合失調症と同じようにprepulse inhibitionの障害がみられ、線条体D2受容体のポストシナプスでの過感受性を形成します[2]。TAAR1は創薬のターゲット分子であり、そのリガンドは錐体外路症状と体重増加をきたさない新規抗精神病薬として期待されています[3]。しかしTAAR1のリガンドにはMDMA、LSDなど幻覚を引き起こす物質もあります。TAAR1をターゲットとした創薬は、統合失調症、うつ病、不安障害、双極性障害、注意欠陥多動障害、パーキンソン病、てんかん、片頭痛で検討されていますが、TAAR1に作用するリガンドは従来の抗精神病薬より分子量もかなり小さく、TAAR1以外への作用も十分検討しておかなければなりません。
文献
[1]Ikemoto K. Striatal D-neurons: in new viewpoints for neuropsychiatric research using post-mortem brains. Fukushima J Med Sci. 2008 Jun;54(1):1-3.
[2]Espinoza S, Ghisi V, Emanuele M et al. Postsynaptic D2 dopamine receptor supersensitivity in the striatum of mice lacking TAAR1. Neuropharmacology. 2015 Jun;93:308-13.
[3]Revel FG, Moreau JL, Pouzet B et al. A new perspective for schizophrenia: TAAR1 agonists reveal antipsychotic- and antidepressant-like activity, improve cognition and control body weight. Mol Psychiatry. 2013;18(5):543-56.
[RB18. Trace amine-associated receptor 1 (TAAR1) is a new target for treating schizophrenia.]