気分と血圧調節で共通する分子標的は?
- 長嶺敬彦
- 2017年7月4日
- 読了時間: 2分
降圧薬の投与が気分障害による入院と関連するか、イギリスの大規模二次医療施設を受診した患者のデータベースを用いて検討されました。降圧薬は、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(renin-angiotensin system blocker;RASB)、β遮断薬(beta blocker;BB)、カルシウムチャネル遮断薬(calcium channel blocker ;CCB)、サイアザイド系利尿薬(thiazide diuretics;TD)の4つのクラスに分けてリスクを調べました。降圧薬を服用していない対照群と比較して気分障害による入院リスクが少なかったのがRASBです。TDは対照群と差がなく、BBとCCBは入院リスクを上昇させました[1]。降圧薬の作用部位の違い(クラス)で、気分に与える影響が異なると考えられます。
気分障害に良い影響を与えたのがRASBということになります。脳内のアンギオテンシンⅡの増加は炎症と関連し、精神疾患の増悪の一因子とされています。したがってRASを安定化させるRASBが気分障害による入院を減じたことは理解できます。またBBでは交感神経系の機能低下により抑うつが誘発される危険性が想像できます。しかしCCBが気分障害のリスクを高めた理由は分かりません。ゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS)により、カルシウムチャネルのサブユニットがコードされているCACNA1C(calcium voltage-gated channel subunit alpha1 C)遺伝子が双極性障害と関連することは分かっています[2]。CCBが気分障害に影響したのは、カルシウムチャネルを遮断することで神経細胞の興奮性が変化したからかもしれません。しかし双極性障害では神経細胞内のカルシウム濃度がわずかに高い可能性が考えられており、CCBでカルシウムチャネルを遮断すれば精神症状が改善する可能性も指摘されています[3]。CCBと気分障害に関しては複雑かもしれませんね。
そもそも双極性障害患者は高血圧症を合併する頻度が高いです[4]。血圧調節の分子メカニズムと気分調節の分子メカニズムが関連するからだと思います。精神疾患患者での脳内アンギオテンシンⅡの動向やカルシウムチャネルの機能を検討すれば、血圧と気分の関係が分子レベルで解明されるかもしれません。
文献
[1]Boal AH, Smith DJ, McCallum L, Muir S, Touyz RM, Dominiczak AF, Padmanabhan S. Monotherapy With Major Antihypertensive Drug Classes and Risk of Hospital Admissions for Mood Disorders. Hypertension. 68(5):1132-1138, 2016.
[2] Soeiro-de-Souza MG, Lafer B, Moreno RA et al. The CACNA1C risk allele rs1006737 is associated with age-related prefrontal cortical thinning in bipolar I disorder. Transl Psychiatry.7(4):e1086, 2017.
[3]Ostacher MJ, Iosifescu DV, Hay A et al. Pilot investigation of isradipine in the treatment of bipolar depression motivated by genome-wide association. Bipolar Disord.16(2):199-203, 2014.
[4]Chien IC, Lin CH, Chou YJ, Chou P. Risk of hypertension in patients with bipolar disorder in Taiwan: a population-based study. Compr Psychiatry. 54(6):687-693, 2013.
[RB21. Common molecular pathways between hypertension and mood disorders.]
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