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GABAの二相性制御を利用した高プロラクチン血症の新たな治療方法

プロラクチンは主に漏斗下垂体系のドパミン神経系(tuberoinfundibular dopaminergic system; TIDA系)で制御(分泌抑制)されています。抗精神病薬はドパミンを遮断するのでTIDA系が遮断され、高プロラクチン血症を惹起します。現在、抗精神病薬による高プロラクチン血症には次の4つの対処方法が行われています。①該当する抗精神病薬の用量を下げる、②リスクが少ない抗精神病薬にスイッチングする(aripiprazole, olanzapine, quetiapine,clozapineなど)、③ドパミン部分作動薬を追加する(aripiprazole5㎎程度)、④ドパミンアゴニストを追加する(bromocriptine、cabergolineなど)です。しかし、これらの方法はいずれもTIDA系のドパミン遮断を緩やかにすることで治療効果を得るため、抗精神病薬の治療ターゲットである辺縁系のドパミン遮断も緩やかになるリスクがあります。つまり精神症状が再発再燃する危険性があります。そこでTIDA系を介さない高プロラクチン血症の治療方法の開発が重要です。

われわれはバルプロ酸による高アンモニア血症に対するカルニチン補充療法の効果を検討してきました。カルニチンは予想通りにアンモニアを低下させました[1]が、アンモニア値とは関連せずに高プロラクチン血症を軽度改善させることを見出しました。そのメカニズムはカルニチンがGABA(gamma-aminobutyric acid)を増やすからだと推測しました。カルニチンはアセチルカルニチンになり血液脳関門を通過し、その一部はGABAになります[2]。GABAは抑制性の神経伝達物質です。GABAはプロラクチン分泌を2相性に制御しています。1つはTIDA系を介する系で、GABAがTIDA系を抑制すると抗精神病薬と同じようにプロラクチン分泌を亢進させます。しかし抗精神病薬によりTIDA系が遮断され高プロラクチン血症を示している場合は、GABAが増えてもこの系への影響はほとんどないと考えられます。もう一つがプロラクチン分泌細胞(lactotroph)のGABA受容体を介する系です[3]。プロラクチン分泌細胞上にある活性化されたGABA受容体にGABAが結合するとプロラクチン分泌を抑制します。このメカニズムはTIDA系を介しません。したがって精神症状の悪化を懸念しなくてよい利点があります[4]。高プロラクチン血症患者では、カルニチンはプロラクチン分泌細胞のGABA受容体を刺激し、プロラクチン値を低下させる可能性があります。今後、動物実験や臨床試験でこの仮説を検証する意義があります。

文献

[1]Nakamura M, Nagamine T. The Effect of Carnitine Supplementation on Hyperammonemia and Carnitine Deficiency Treated with Valproic Acid in a Psychiatric Setting. Innov Clin Neurosci. 2015;12(9-10):18-24.

[2]Scafidi S, Fiskum G, Lindauer SL, Bamford P, Shi D, Hopkins I, McKenna MC. Metabolism of acetyl-L-carnitine for energy and neurotransmitter synthesis in the immature rat brain. J Neurochem. 2010;114(3):820-31.

[3] Racagni G, Apud JA, Cocchi D, Locatelli V, Muller EE. GABAergic control of anterior pituitary hormone secretion. Life Sci. 1982;31(9):823-38.

[4]Nakamura M, Nagamine T. Pituitary gamma-aminobutyric acid receptor stimulation by carnitine may be a new strategy for antipsychotic-induced hyperprolactinemia. Psychiatry Clin Neurosci. 2017 Jun 1. doi: 10.1111/pcn.12542. [Epub ahead of print]

[RB22. A novel therapeutic method for antipsychotic-induced hyperprolactinemia; Pituitary GABA receptor stimulation by carnitine.]

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