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オレキシンはインスリン非依存的に血糖調節に関与する

  • 長嶺敬彦
  • 2017年10月7日
  • 読了時間: 3分

脳にとって糖は大切なエネルギー源です。ですから血糖の調節メカニズムは生存に必要不可欠です。血糖はさまざまな因子(インスリン、グルカゴン、ノルアドレナリン、グルココルチコイドなど)が階層的に働き調節されていますが、その中でもっとも中心的な役割を果たすホルモンはインスリンです。インスリンは糖を代謝する重要なホルモンです。しかしわれわれはインスリン濃度とは無関係に、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)が血糖を低下させることを臨床ではじめて示しました[1]。ノルアドレナリン神経系が糖新生のスイッチを変化させるためと推測しました。不眠のためにスボレキサント(15~20㎎/日)を開始した糖尿病でない37名の患者さんで研究した結果です。スボレキサントの投与を開始し8週間観察しました。すると生理的範囲内で空腹時血糖が軽度低下しました(変化量の平均は-12.6 mg/dlでした; 98.2㎎/dl→85.6㎎/dl)。血糖低下時にインスリンの増加を認めず、むしろ8週目ではインスリンは有意差はつきませんでしたが軽度低下傾向を認めました。このスボレキサントの血糖低下作用はインスリン作用を介するものではなく、血糖が低下したためにインスリンが軽度低下したと考えられます。ノルアドレナリンは血糖低下と並行して軽度ですが低下しました。体重や脂質マーカーの変化はありませんでした。つまりオレキシン受容体を阻害するとノルアドレナリンが軽度低下し、その結果として空腹時血糖が有意に低下したと考えられました。

ヒトの脳の視床下部には7万以上のオレキシン神経細胞があり、そこから脳全体に神経を伸ばしています(投射しています)。オレキシンにはAとBがありますが、どちらも刺激されると覚醒を促します。スボレキサントはオレキシンAに対してもBに対しても拮抗作用を示します。そのために睡眠作用が現れます。一方、オレキシンAを動物の脳脊髄液に投与すると血糖が上昇します。この血糖上昇はオレキシン神経がノルアドレナリン神経を介して肝臓での糖新生を促すためと推測されています。スボレキサントはオレキシンAに拮抗し、ノルアドレナリン神経の活動を低下させ、動物モデルでは肝臓で糖新生に働くさまざまな酵素の発現を低下させます。視床下部のオレキシン神経は覚醒レベルに関与するだけでなく、糖代謝にも影響を与えます。今回のわれわれの研究は、オレキシン拮抗作用を有するスボレキサントが覚醒レベルの低下と血糖の軽度低下をヒトで証明したものです。活動性が低下すれば糖の必要度は低下するので、この機構は合目的的です。そういえば、冬眠(hibernation)では覚醒レベルが低下し、血糖を低下させ、エネルギー源を炭水化物から体内に蓄積された脂肪に変換させますが、その時の覚醒レベルと糖の調節メカニズムもおそらくこのような覚醒と代謝を制御するメカニズムが必要であると思います。冬眠は言うまでもなく過酷な環境に対して生命が巧妙に命をつなぐ工夫です。そのためには覚醒などの活動性と糖代謝などの速効性のエネルギー供給が1つのスイッチで行われる必要があります [2]。オレキシン神経はこのように活動性とエネルギー産生バランスを生存に有利なように調節するスイッチの一つではないでしょうか。

文献

[1] Nakamura M, Nagamine T. Suvorexant as an orexin antagonist may regulate serum glucose levels in psychiatric patients with insomnia. Psychiatry Clin Neurosci. 2017 Sep 25. [Epub ahead of print]

[2] Nagamine T. Nakamura M. Suvorexant, a dual orexin receptor antagonist, may work as a glucose regulatory switch. Atlas of Science. 2017 Oct 24.

[RB23. Orexin regulates serum blood glucose levels independent of insulin levels]

 
 
 

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