腸内環境は体重に影響する-プレバイオティクスの投与でビフィズス菌と炎症(Treg)に関連する菌種が変化した
統合失調症の患者さんは非定型抗精神病薬による肥満が問題となっています。しかしその一方で、長期入院中の統合失調症患者さんは低体重の頻度が高く、肺炎などの合併症の罹患率が高いことが危惧されています。痩せ(低体重)はさまざまな疾患を引き起こす危険因子です。そこでわれわれは入院中の痩せた統合失調症患者さんを対象に、プレバイオティクスであるラクトスクロースを投与して6ヶ月間の体重変化を観察しました。平均で体重が約2kg増加し、BMIが20.9±3.7 kg/m2 から22.3±4.3 kg/m2に増えました。同時にT-RFLP(terminal restriction fragment length polymorphism)法を用いて腸内細菌叢(糞便細菌叢)の変化を観察したところ、体重が増えるに従いBifidobacteriumが増加し、Clostridium subcluster XIVaが低下しました[1]。血糖や中性脂肪は有意な変動を示さず、むしろ中性脂肪は軽度低下する傾向が見られました。今回使用したプレバイオティクスであるラクトスクロースは、動物実験では中性脂肪と分子間結合し、その吸収を阻害すると言われています。ですからエネルギー吸収が増加し体重が増えたわけではなさそうです。Bifidobacterium が増加したのは腸内環境が改善したことを意味していると思いますが、では腸内環境が体重を変化させるメカニズムはいったい何なのでしょうか。まったく分かっていません。
今回のわれわれの研究論文[1]では考察していませんが、もう一つ気になる腸内細菌叢の有意な変化はClostridium subcluster XIVaの低下です。Clostridium subcluster XIVaは腸の炎症を抑制する腸内細菌叢として近年注目されています[2]。炎症を抑制する制御性T細胞(regulatory T cell;Treg)を誘導する17菌種のうち12菌種がClostridium subcluster XIVaに属すると報告されています[3]。活性型のT細胞は病原体や異物を排除しようとして免疫反応を引き起こします。それに対して制御性T細胞であるTregはFoxp3を発現して、他のT細胞の過剰な免疫反応を抑制的に調節します。Clostridium subcluster XIVaの増加と腸の炎症性疾患の改善が報告されています[2]。今回のわれわれの研究結果であるプレバイオティクスの投与でBifidobacterium が増加しClostridium subcluster XIVaが低下したのは、腸内の炎症が治まりTregの誘導が低下したことを意味しているのでしょうか。あるいはT細胞を活性化することで免疫反応が働き、腸内環境が改善したのでしょうか。体重減少には腸管のバリア機能が関与しています[4]。今回のわれわれのデータは免疫応答機構において過剰な免疫応答が改善した結果を見ているのか、あるいは免疫応答が活性化しやすい腸内細菌叢になり腸管バリア機能が改善したのかは、今後の研究が必要です。Clostridium subcluster XIVaの変化はTregを介して腸管免疫を変化させる可能性があるので、今回のデータ[1]は興味ある結果と思います。
文献
[1]Nagamine T, Ido Y, Nakamura M, Okamura T. 4G-β-D-Galactosylsucrose as a prebiotics may improve underweight in inpatients with schizophrenia. Biosci Microbiota Food Health. Released: January 06, 2018 (DOI:https://doi.org/10.) [Advance publication]
[2]Atarashi K et al. Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature. 2013;500(7461):232-6.
[3]Narushima S et al. Characterization of the 17 strains of regulatory T cell-inducing human-derived Clostridia. Gut Microbes. 2014;5(3):333-9.
[4]長嶺敬彦,中村 優.精神疾患とバリア学.最新精神医学21(1):73-78,2016.
[RB26. Body weight depends on his or her fecal microbiota; Increased Bifidobacterium and decreased Clostridium subcluster XIVa that regulates Treg were observed by the 6 months administration of Lactosucrose.]