唾液量の変動で舌痛症患者の三環系抗うつ薬への早期反応性が予測できる
舌痛症は器質的な歯科口腔領域の疾患を認めない耐えがたい舌、口腔領域の疼痛性疾患です。その治療には低用量の三環系抗うつ薬やSSRI、あるいはSNRIが用いられます。アミトリプチリン10~30㎎がfirst lineと言われていますが、responderとnon-responderが存在します。舌痛症のアミトリプリチンへの反応性を予測するマーカーは今までありませんでした。意外なことに、唾液量の変化が早期反応性を予測する因子の1つである可能性が報告されました[1]。 舌痛症は口腔乾燥感を伴いやすいですが、唾液分泌に障害があるわけではありません。唾液量が軽度低下しているとする報告もありますが、唾液の分泌能自体には障害がないと考えられています。アミトリプチリンの投与前と投与1か月後の唾液分泌量の変化が治療反応性と関連していました。唾液量の測定はサクソンテスト(Saxon test)で行います。サクソンテストとは、乾燥したガーゼを2分間一定の速度で噛み、ガーゼに吸収される唾液の重量を測定して唾液の分泌量とします。ガーゼの重量増加が2g以下の場合、唾液量が少ない、すなわちサクソンテスト陽性と判断します。舌痛症の患者さんの唾液量はほぼ正常です。アミトリプチリンで痛みが改善した群(responder)は唾液量が低下したのに対して、治療に反応しなかった群(non-responder)は唾液量が増加しました[1]。 唾液は自律神経系で分泌が制御されています。二重支配を受けており、アセチルコリンが神経伝達物質である副交感神経系の刺激で液性の唾液が分泌されます。ノルアドレナリンが神経伝達物質である交感神経系で蛋白含量が高い粘性な唾液を分泌します。三環系抗うつ薬はアセチルコリンを阻害する抗コリン作用があり、唾液の液性分泌を低下させます。一方、三環系抗うつ薬はノルアドレナリンの再取り込みを阻害するので、下行性疼痛抑制系を刺激し痛みを軽減すると同時に交感神経刺激での粘性の唾液分泌を増加させます。アミトリプチリンで唾液量が減少せず、増加した患者さんは、副交感神経系がもともと機能低下し唾液量が軽度低下し、そこにノルアドレナリンがアミトリプチリンで増加したため交感神経系を介する唾液量の増加を来たすと推測されます。つまりnon-responderはアミトリプチリンで唾液が増加します。慢性疼痛では、脳幹部のノルアドレナリン神経核である青斑核が活性化しており、この系が疼痛促進に働くと考えられています[2]。アミトリプチリンがノルアドレナリンを増加させると、脳幹部での疼痛促進に働く可能性があります。それに対して効果があった群では、ノルアドレナリンの異常な亢進がなく、アミトリプチリンで副交感神経系がブロックされ液性の唾液量が低下したと考えられます。唾液量の測定は、簡便で非侵襲的です。唾液量の変化で痛みへの抗うつ薬の反応性が推測できる可能性があります[1]。
文献 [1]Kawasaki K, Nagamine T, Watanabe T, Suga T, Trang T.H Tu, Sugawara S, Mikuzuki L, Miura A, Shinohara Y, Yoshikawa T, Takenoshita M, Toyofuku A. An increase in salivary flow with amitriptyline may indicate treatment resistance in burning mouth syndrome. Asia Pac Psychiatry. 2018; Article DOI: 10.1111/appy.12315 [2] Taylor BK, Westlund KN. The noradrenergic locus coeruleus as a chronic pain generator. J Neurosci Res. 2017;95(6):1336-1346.
[RB27. The change in salivary flow with amitriptyline indicates early response to treatment in patients with burning mouth syndrome.]