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抗生物質による偽膜性腸炎(Clostridioides difficile infection)の予防にプロバイオティクスは有用か?

抗生物質の投与は腸内細菌叢を撹乱し、Clostridioides difficileによる偽膜性腸炎(Clostridioides difficile infection; CDI)のリスクを高めます。CDIは難治性の下痢を示し、高齢者では生命の危険をもたらす厄介な病態です。偽膜性腸炎の話の前に、名前について変更になったので少しだけ書いておきます。CDIはつい最近までは、Clostridium difficileの名前で呼ばれていました。Clostridium difficileと分類上同属のClostridium perfringens、Clostridium botulinum、Clostridium tetani、Clostridium butyricumとはやや離れた菌種であること、また、Clostridium mangenotiiと極めて類似しているということから、再分類によってClostridium属から外れました。変更後の名前は最初に書きましたようにClostridioides difficileで、略した時に菌の名前が変わらないように工夫されています。しばらくは、以前の名前のままClostridium difficileも使われると思います。尚、Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)、Clostridium botulinum(ボツリヌス菌)、Clostridium tetani(破傷風菌)、Clostridium butyricumはそのままです。(Lawson PA, Citron DM, Tyrrell KL, Finegold SM. Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile (Hall and O'Toole 1935) Prevot 1938. Anaerobe. 2016 Aug;40:95-9.)

今回、後ろ向きのケース・コントロール試験ですが、プロバイオティクスの投与がCDIの発生を低下させるか、高齢の大腿骨近位部骨折手術例で検討しました。ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、バチルス・メセンテリカス(Bacillus mesentericus)およびクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)の合剤(ビオスリー®)投与を介入とし、潜在的な交絡因子として、年齢、性別、抗生物質多剤療法、低アルブミン血症、貧血、下剤使用、およびプロトンポンプ阻害剤(PPI)使用を検討しました。プロバイオティクス3菌種を投与された患者さんのCDIの発症率が統計学的に有意に低いことが分かりました[1]。

プロバイオティクスは、結腸粘膜に定着することができる生きた非病原性細菌です。本研究で使用した3菌株は、インビトロの腸管モデルで抗生物質の存在下で高い生残性を示します。プロバイオティクスが抗生物質による下痢やCDIを予防するメカニズムとしては、バクテリオシン/デフェンシンの産生、病原菌による競合阻害、細菌付着や定着の抑制、管腔内pHの低下、粘液産生の増加による腸のバリア機能の改善などが可能性としてあります。プロバイオティクスは、嫌気性細菌を増加させ、潜在的に病原性の微生物の集団を減少させ、毒素生成性などの有害な病原菌の増殖を阻害する可能性上がります。さらに最近のインビトロの研究では、Th1免疫応答を刺激し、腫瘍壊死因子αなどの炎症性サイトカインを抑制し、抗炎症性サイトカインであるインターロイキン-10を活性化し、免疫バランスの改善をもたらす可能性も示されています。

しかし現在のCDI治療ならびに予防に関するガイドラインではプロバイオティクスは推奨されていません。その背景には菌の種類や投与量が一般化されていないことがあげられます。今後どの菌種やどのような菌の組み合わせが有効なのか、動物モデルや臨床試験で解明していかなければなりません。なぜならプロバイオティクスによりCDIが予防できるのであれば、必要な時に抗生物質をより安全に使用することができるからです。

文献

[1] Nagamine T. Matsumoto Y, Nakamura M. Combination probiotics may prevent Clostridium difficile infection among elderly patients undergoing an orthopedic surgery. Biosci Microbiota Food Health. 2019;38(1):31-33.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30705800

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