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コロナと悪性症候群

 COVID-19のパンデミックで、救急医療は困難を極めています。救急医としての私たちの使命は、常に社会的弱者を支援することです。救急医療を行う際には、身体的症状と心理的症状の両方を考慮する必要があります。

コロナ下では、さまざまな病態に注意が必要で、コロナに類似するコロナ以外の疾患を見逃してはいけません。たとえば、無嗅覚症の鑑別診断では、軽微な外傷性の嗅神経損傷によるものにも注意が必要です(1)。

またコロナに罹患すると、いったん呼吸器症状が軽快しても、さまざまな合併症を引き起こすことがあります。たとえば、凝固系異常に伴う脳血管疾患などです。COVID-19回復の初期に発生する脳梗塞があります。コロナ肺炎が改善した後に島皮質脳梗塞で、言語のアクセント異常が認められた症例を経験しました(2)。この症例は、いわゆるForeign Accent Syndromeです。左島皮質と隣接する前頭葉皮質は、機能画像研究により、音声言語を構成するのに重要な場所です。

 さらにパンデミック下で通常医療の受診形態が制限され、精神科では電話診療が利用されました。すると抗精神病薬の副作用の発見が遅れることもあります。たとえば悪性症候群は、パンデミック下で救急搬送された症例が増えた印象です(3)。悪性症候群は、抗精神病薬内服中に出現する高熱、筋緊張などの重篤な症状です。病態生理がいまだに解明されていませんが、中枢の低ドパミン状態を基盤にした急性期反応が関与していると推定されています。この急性期反応には感染だけでなく免疫学的な反応も関与すると考えられます。

パンデミック対策ではワクチンが重要ですが、コロナのmRNAワクチン接種後に典型的な悪性症候群を惹起した症例を経験しました。ワクチンはメリットの方がはるかに大きいですが、抗精神病薬内服中の患者では悪性症候群にも注意する必要があります。ワクチンは免疫反応を介して、サイトカインなどを産生するので、それが悪性症候群を関連する可能性があります(4)。ただし、その過程に抗精神病薬による中枢でのドパミン低下がどのように関連するか、今後研究を行う必要があります。

 感染症のパンデミック下は、臨床上のさまざまな問題が浮き彫りにします。この概念はシンデミックと言われます。課題を見つけ、研究を続けていかなければなりません。

References

(1) Nagamine T. Beware of traumatic anosmia in COVID-19 pandemic. CJEM. 2021 Jul;23(4):567-568.

(2) Nagamine T. Foreign accent syndrome associated with left insula infarction after COVID-19 pneumonia. CJEM. 2021 Nov;23(6):858-859.

(3) Nagamine T. Beware of Neuroleptic Malignant Syndrome in COVID-19 Pandemic. Innov Clin Neurosci.2021;18(7-9):9-10.

(4) Nagamine T. Neuroleptic malignant syndrome associated with COVID-19 vaccination. CJEM. 2021 Dec 17. doi: 10.1007/s43678-021-00254-0.

[Research Blog37: COVID-19 and Neuroleptic Malignant Syndrome: The pandemic can make a variety of clinical problems visible.]

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