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感染・免疫は、精神疾患の病態形成と深くかかわる

 もう20年以上前になるのですが、精神科関連のある学会で講演をする機会をいただきました。抗精神病薬の身体合併症を研究していて、慢性の便秘などを臨床的に検討する中で、腸内細菌のよる日和見感染であるbacterial translocationの話をしました。そして「精神疾患の原因の一つは感染である」というような仮説を説明しました。その時の著名な先生方の反応は、今でもよく覚えています。「Incredibly unbelievable!」で、すこし軽蔑的な視線であったのです。

 あれから20年。感染症と精神疾患の関連を示唆する疫学データが提示されています。いずれも北欧のビッグデータを用いた研究です。余談ですが、このような国民の登録データベースを用いた研究は、データベースの構築が進んでいる北欧で盛んに行われているのです。

1995年1月1日から2012年6月30日にデンマークで出生した109万8930人を対象として、抗菌薬の使用が精神疾患の発症と関連するか研究されました。追跡終了時の平均年齢が9.76歳と、小児で検討されためずらしい研究です。のべ962万807.7人・年のビッグデータが解析されました。観察期中に4万2462人(3.9%)が統合失調症圏や自閉症圏の精神疾患で入院しており、観察期間中に投薬を受けた感染症治療薬の数が増えれば増えるほど、精神疾患による入院ならびに向精神薬処方のハザード比が増加していました。感染症への罹患とその治療は、小児期の精神疾患発症を高めると考えられます(1)。

 別の研究ですが、食行動異常症(eating disorder)も感染の既往と関連する可能性が示されました。神経性食思不振症は性差があり、女性に多いので、観察集団を女性に限った研究です。1998年1月1日から2006年12月31日にデンマークで出生した女児52万5643人を追跡し、のべ460万1720.4人・年を追跡し、追跡終了時の平均年齢は16.2歳でした。感染症での入院や入院にまでは至らないが抗菌薬での治療は、神経食思不振症やブリミア(過食嘔吐症)などの食行動異常症発症のハザード比を統計学的に有意に上昇させました(2)。

精神疾患と感染症―3つの要因が考えられる

 これらのビッグデータ解析は、精神疾患と感染症が関連することを示唆しています。その他にも、感染症が多い季節に生まれたほうが統合失調症の罹患率が高いとか、妊娠中にインフルエンザに罹患した母親から生まれた子どもは統合失調症の罹患率が高かったなど、感染・免疫と精神疾患の関連が示唆される疫学データがあります(3)。

 もちろん、感染が炎症を惹起し、脳の回路を書き換えると短絡的に考えることは危険です。疫学は病態の因果関係を説明するものではないからです。ですから、少なくとも3つの可能性を考えるべきです。1つ目は、当然ですが、感染が精神疾患を惹起する可能性です。2つ目は、抗菌薬が脳に影響する可能性です。抗菌薬の一部は血液脳関門を通過します。その影響も考える必要があります。そして3つ目として、腸内細菌叢の変化を考える必要があります。感染症で使用される抗菌薬は、腸内細菌叢のエコシステムに影響します。腸内細菌の産生する物質、腸管のバリア機能、腸管から中枢への神経伝達など、ブラックボックスが多くありますが、この経路が脳の回路を書き換える可能性は十分あると思っています。どこに焦点を当て、どのようなアプローチでそれを解明するか、難しい点ですね。

文献

(1) Ole Köhler-Forsberg et al. A Nationwide Study in Denmark of the Association Between Treated Infections and the Subsequent Risk of Treated Mental Disorders in Children and Adolescents. JAMA Psychiatry. 2019;76(3):271-279.

(2) Lauren Breithaupt et al. Association of Exposure to Infections in Childhood With Risk of Eating Disorders in Adolescent Girls. JAMA Psychiatry. 2019;76(8):800-809.

(3) Manassa Hany, Baryiah Rehman, Yusra Azhar, Jennifer Chapman. Schizophrenia. StatPearls Publishing LLC. 2020. (PMID: 30969686)

 

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