血糖の軽度低下は抗精神病薬の効果を予測する―心身相関を分子メカニズムレベルで考えようー
脳は司令塔で、身体機能を制御するスーパーコンピューターに例えられる。しかし本質的な中枢は存在しない。脳機能の1つの表現型である精神機能は、身体機能と密接に関連する。この心身相関は、実臨床での精神機能の変化の予測因子として利用できないだろうか。
統合失調症あるいは双極性うつ病患者47名での解析である。統合失調症25名、双極性うつ病22名で、性別では女性35名(平均年齢44.4歳)、男性12名(平均年齢42.1歳)である。精神症状の評価には、機能を含めた状態の評価であるGlobal Assessment of Functioning(GAF)スコアを用い、ルラシドン投与1ヵ月後の空腹時血糖値(FBG)とGAFスコアの変化をWilcoxon signed-rank検定で検定した。さらに、FBGの変化量とGAFの変化量の相関をスピアマンの相関係数を用いて検討した。
ルラシドン投与前のGAFは30.7±1.7(平均値±標準誤差)、1ヵ月後のGAFは52.8±2.2と、精神症状は有意に改善した(p<0.01)。ルラシドン投与前のFBGは94.9±3.0mg/dLで、投与1ヵ月後は86.9±2.1mg/dLで統計的に有意な減少を示した(p=0.001)。FBGの低下とGAFの増加(精神機能の改善)は統計学的に有意に相関した(相関係数r=-0.388, P=0.027) [1]。ルラシドンによる血糖値の軽度の低下は、精神症状の改善を示唆した。
精神症状も血糖も脳からの指令を受けてコントロールされている。糖尿病などの代謝異常がない限り、血糖値はカテコールアミンを神経伝達物質とする自律神経の中枢での制御を受ける。そもそも精神疾患患者では、精神症状の増悪期には、カテコラミン分泌を介して血糖値が上昇する傾向がある。血糖値と精神症状が関連する介在メカニズムがある。カテコラミンも精神機能も中枢性ドパミンD2受容体の機能で変化する。マウスの髄腔内にドパミンD2受容体作動薬を投与すると用量依存的に血糖値が上昇し、この血糖値の上昇はドパミンD2受容体拮抗薬によって抑制される。ルラシドンの薬理作用の1つであるD2受容体遮断作用は、抗精神病作用と精神運動興奮による血糖上昇を軽減する作用がある可能性がある。さらに、ルラシドンのユニークな受容体プロファイルとして、5HT1A受容体を介する作用がある。5HT1A受容体は抑うつなどの精神機能を改善する作用だけでなく、最近の研究では血糖値の中枢制御に関与する可能性が示唆されている。ルラシドンの5HT1Aに対する親和性は、精神機能と血糖の両方に影響を及ぼす可能性がある。
血糖値の変化が精神機能の改善を示唆したのは、脳機能が身体機能と相互に関連する複雑な分子メカニズムが存在するからである。抗精神病薬の効果を血液検査で可視化することができれば面白い。
文献
[1]Nagamine T, Nakamura M. Mild Decrease in Blood Glucose Levels May Predict Efficacy of Antipsychotic Lurasidone. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2023 Feb 28;21(1):207-209. doi: 10.9758/cpn.2023.21.1.207. PMID: 36700328.
[RB39. Mild Decrease in Blood Glucose Predicts Antipsychotic Effects; Psychosomatic Correlation at the Molecular Mechanism Level]
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