非定型抗精神病薬による非定型糖尿病の分子メカニズム
- knagamine2
- 2021年1月11日
- 読了時間: 3分
非定型抗精神病薬により1型でも2型でもない糖尿病を発症することがあります。発症形式は1型糖尿病に類似します(インスリンの絶対的不足である糖尿病性ケトアシドーシスで発症する)が、1型特有の自己抗体を認めません(1)。非定型抗精神病薬への暴露は糖尿病性ケトアシドーシスの発症リスクを10倍高め、オランザピンがもっともリスクがあります。オランザピンがインスリン分泌を一時的に停止するメカニズムが推測されます(2)。このオランザピンによる非定型糖尿病の分子メカニズムが、小胞体ストレス応答の研究で世界的に有名な京都大学森和俊研究室の実験で最近解明されました。
■ PERK経路への影響
ハムスターのβ細胞であるHIT-15細胞を用いた実験です。オランザピンはインスリンが立体構造を形成する過程で軽度の小胞体ストレスを誘発します。小胞体ストレスでは、まず小胞体ストレスセンサーのPERK経路が活性化します。PERK経路が活性化すると、正常では、ストレス解除のためにその下流のeIF2αのリン酸化が起こり、一時的な翻訳抑制が起こります。しかしオランザピンで処理したHIT-15細胞では翻訳抑制が起こらず、小胞体ストレスが継続し、最終的にβ細胞がアポトーシスを起こしました(3)。
■プロインスリンの重合体形成
マウスのβ細胞株であるMIN6を用いた実験です。オランザピンをこの細胞に14時間作用させて糖刺激するとインスリン分泌が極端に低下しました。インスリンが分泌されるには、その前駆物質であるプロインスリンが合成されなければなりません。免疫染色にて、MIN6細胞内でのプロインスリンの分布を調べると、オランザピンを加えて14時間経つと、細胞質内にプロインスリンのドットがなくなり、小胞体マーカーであるカルネキシンと共局在するようになりました。オランザピンはプロインスリンを小胞体の中に留めおき、ゴルジ体を経由して分泌顆粒に進むのを阻止しています。小胞体に留め置かれたプロインスリンを、マススペクトロメトリーにかけその状態を観察すると、プロインスリンが重合した高分子プロインスリン(High molecular weight proinsulin)でした。
プロインスリンは分子シャペロンの手助けを得て適切なジスルフィド結合(-S-S-結合)を形成し正常な立体構造をとるのですが、オランザピンが存在すると、適切な分子内-S-S-結合形成が阻害され、分子間-S-S-結合により高分子プロインスリンが小胞体内に蓄積しました。このプロインスリンの重合体は異常タンパク質ですから、小胞体から細胞質に逆行輸送され、小胞体関連分解のメカニズムが作動し、細胞質のプロテアソームによって分解されます。オランザピンがプロインスリンの分子内-S-S-結合を阻害するため、一時的にインスリン分泌を低下させ、非定型糖尿病を誘発すると考えられました(4)。
文献
1. NagamineT. Atypical Diabetes Mellitus Caused by Olanzapine. Aust N Z J Psychiatry.2021:55
2. Nagamine T. Olanzapine and Diabetic Ketoacidosis; What is the Underlying Mechanism? Innov Clin Neurosci. 2018;15(3–4):11–12.
3. Ozasa R, Okada T, Nadanaka S, Nagamine T, Zyryanova A, Harding H, Ron D and Mori K: The Antipsychotic Olanzapine Induces Apoptosis in Insulin-secreting Pancreatic β Cells by Blocking PERK-mediated Translational Attenuation. Cell Struct Funct. 2013;38:183-195.
4. Ninagawa S, Tada S, Okumura M, Inoguchi K, Kinoshita M, Kanemura S, Imami K, Umezawa H, Ishikawa T, Mackin RB, Torii S, Ishihama Y, Inaba K, Anazawa T, Nagamine T, Mori K. Antipsychotic olanzapine-induced misfolding of proinsulin in the endoplasmic reticulum accounts for atypical development of diabetes. Elife. 2020 Nov 17;9:e60970.
[RB35. Molecular mechanisms of antipsychotic-induced atypical diabetes]
最新記事
すべて表示悪性症候群は、ドパミン拮抗薬(一般的には抗精神病薬)への曝露に関連する、まれで特異な病態である。病態は完全には解明されておらず、横紋筋融解症から急性腎障害や多臓器不全に進行する症例がある。致死的に至る症例は、横紋筋融解症の合併とともにカルシウム代謝の障害が起こっている可能性...
古典的三叉神経痛(TN)は、三叉神経の主に神経根入口部における明瞭な神経血管圧迫(NVC)によって引き起こされる顔面痛疾患である。血管圧迫は、中枢と末梢のミエリン鞘の移行部で局所的な脱髄を誘発し、異所性インパルスを引き起こす可能性があるため、顔面痛発作が誘発される。脱髄が圧...
脳は司令塔で、身体機能を制御するスーパーコンピューターに例えられる。しかし本質的な中枢は存在しない。脳機能の1つの表現型である精神機能は、身体機能と密接に関連する。この心身相関は、実臨床での精神機能の変化の予測因子として利用できないだろうか。...
Comments